インバータ
1.カーボンニュートラルの実現に貢献するインバータ
汎用インバータはカーボンニュートラルを実現するため、社会インフラ・ものづくり・生活関連機器と幅広い分野で適用されています。適用用途も省エネ効果の高いファンやポンプの駆動から、通信ネットワークに適応し高付加価値を実現した機械・装置まで多岐に亘り、省エネルギー化や生産効率アップを図る事が可能です。
2.省エネ効果
ファン、ポンプを商用電源で駆動させる場合、モータが定速運転するためファンの風量やポンプの流量をダンパやバルブにより調整する方式が一般的に採用されています。
この方式では、風量や流量を下げてもダンパやバルブの損失が発生し、モータの軸動力の低減が期待できません。
一方、風量や流量は回転速度に比例するため、インバータによりモータの回転速度を変化させることで風量や流量を調整する方式を採用すると、使用する電力は、回転数の3 乗に比例して減少するため大幅な省エネルギーを図ることができます。
インバータは、一般的に新設、既設(*)のどちらのモータにも接続可能ですので、回転速度制御に最適な可変速装置といえます。
注(*):既設には、適用条件があるので、詳細はモータメーカまでお問合せください。
省エネ計算の例
インバータを使うと省エネルギーになるの?
- ファン・ポンプを、ダンパ(バルブ)制御またはインバータ制御で運転する場合、風力(流量)と所要電力の関係は図1のようになっています。
- 風量(流量)が少ない場合は、特に省エネルギー効果が大きくなります。
図1 省エネ効果
ダンパ(バルブ)制御をインバータ制御にした場合の省エネ効果
事務所空調設備での省エネルギー効果は以下となります。
なお、運転パターンを風量:85%:2000 時間、60%:2000 時間の合計4000時間/年、電動機出力:15kW×1 台と仮定します。
- ダンパ(バルブ)制御の場合の所要動力量:(15kW×91%×2000 時間:風量85%)+(15kW×76%×2000 時間:風量60%)= 50,100kWh/年
- インバータ使用の場合の所要電力量:(15kW×66%×2000 時間:風量85%)+(15kW×25%×2000 時間:風量60%)= 27,300kWh/年
- 年間の省エネルギー効果:50,100kWh/年-27,300kWh/年 = 22,800kWh/年
- 電力料金を16円/kWh とした時の節約効果:22,800kWh/年×16 円/kWh = 36.5 万円
- インバータ代金を45 万円とした時の設備償却年数は、45 万円/36.5 万円 = 1.2 年
-
年間のCO2 排出係数※ を0.436kg-CO2/kWh とすると22,800kwh/ 年×0.436kg-CO2/kWh = 9,941kg-CO2/年
※ CO2 排出係数実績(速報値) 2023年9月 電気事業低炭素社会協議会 - 年間のCO2削減効果は約45%
図2 ダンパ(バルブ)制御とインバータ制御の比較
注:個々の使用条件によって異なります。
3.インバータの使用状況:2022年度実績
インバータの装着率
2022年度「モータ・インバータに関するユーザ調査」報告書 |
事業所数 |
モータ |
インバータ |
装着率 |
全体 |
193 |
732,459 |
180,114 |
24.6% |
ファン、ポンプ及び圧縮機 |
15 |
316,576 |
82,109 |
22.7% |
インバータの用途は、ますます拡がっていますが、インバータの装着率は、まだまだ低いため、インバータが活躍できる設備に適用することで、より一層の省エネ化を図ることができます。
また、ファン、ポンプ及び圧縮機でのインバータ使用比率が一番大きいため、この用途へのインバータの装着率を向上させることで大きな効果が期待できます。
4.インバータの用途
分類 |
用途例 |
---|---|
建設・土木機械 |
・トンネル掘進機・舗装機械 |
食料品加工機械及び包装機械 |
・製パン機・製菓機・製茶機・製麺機・精米麦機・製粉機・ミキサー・スライサー・選果機・内装機・荷造り機・外装機・ラップ包装機 |
搬送機械 |
・クレーン・コンベア・リフト・エレベータ・エスカレータ・駐車装置・自動立体倉庫装置 |
繊維機械 |
・紡糸機・仮より機・延伸ねん糸機・織機・編機・染色仕上機 |
化学プラント |
・ミキサー・押出機・遠心分離機・塗装機破砕機・カレンダ・成形機 |
木材加工機械 |
・製材機・木工機・合板機 |
金属工作機械 |
・旋盤-ボール盤・フライス盤・研削盤・歯切り盤-研磨盤・中ぐり盤 |
金属加工機械 |
・各種ロール・製管機・レベラー・せん断機・伸線機・機械プレス・巻出巻取機 |
ファン、ポンプ及び圧縮機 |
・空調システム・各種ファン・ブロア・上・下水道用給配水ポンプシステム・タンクレス給配水システム・クリーンルーム・冷凍機応用製品・乾燥機 |
製紙・印刷機械 |
・抄紙機・ワインダ・スリッタ・製本機・枚葉印刷機・オフセット印刷機・新聞輪転機 |
半導体製造装置 |
・半導体・液晶製造装置・電子部品製造組立機械 |
健康-医療・福祉介護関連機器 |
・階段昇降装置・介護用ベット・泡風呂・ルームランナー・レントゲン装置・CTスキャナー |
生活関連機器 |
・業務用洗濯機・業務用アイロン台・洗車機・生ゴミ処理機・集塵機・ホームエレベータ・安全ドア |
インバータ応用製品 |
・太陽光発電・風力発電・燃料電池・電気自動車など |
5.インバータの技術動向と近未来
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インバータ誕生後から現在
-
a電源高調波対策
リアクトル内蔵インバータや正弦波コンバータにより電源高調波対策ができるようなりました。また、通商産業省(現経済産業省)より通知された高調波抑制対策ガイドラインの概要とインバータの高調波抑制の原理及びその対策方法について説明したパンフレット「汎用インバータ及びサーボアンプの高調波抑制対策について」を発行することによって電源高調波対策を促進しました。
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b高周波ノイズの低減
従来より、外付けのノイズフィルタを使用することでインバータから発生するノイズを低減することが可能ですが、EMCフィルタ内蔵インバータのリリースによって、小型で低ノイズが実現可能となりました。また、インバータのノイズトラブルを防止するためのパンフレット「インバータの上手な使い方(電気ノイズ予防対策について)」を発行しています -
c低速運転時の運転性能
速度センサレスベクトル制御やオートチューニング機能の性能向上により、速度センサ無しでも高い始動トルクを実現できるようになりました。これにより、力行だけではなく回生領域においても、低速度での安定したトルク特性が得られます。
パラメータ設定により、複数のモータ制御方式から負荷特性に合わせた制御方式を選択して使用することも可能です。
-
d耐久性・寿命
電解コンデンサや冷却ファンなどの寿命部品の長寿命化や標準で基板へのワニス塗布などにより、標準製品での耐久性や寿命が向上してきました。
また、インバータ自身でインバータ内部の部品の寿命を診断する寿命診断機能の搭載により、故障前の部品やインバータの交換が可能となっています。 -
e寸法・重量
IGBTなどの半導体パワーデバイスのパワー密度の向上、連続使用温度の向上により、製品外形の大幅な小型化と軽量化が進んできました。
-
f騒音の程度
モータをインバータ駆動にすることで、電磁騒音が問題となる場合があります。これはモータに印加されるインバータの出力電圧が矩形波による影響です。この矩形波はインバータのスイッチング周波数によるため、対策としてスイッチング周波数の高周波化を行うことで、人の可聴領域を外すことができ騒音の程度を緩和することこができました。
また、スイッチング周波数を固定ではなく変化させることで、周波数成分が分散させることで音色を変えることもできるようになりました。
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最近の変化
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aモバイル端末からの設定
ワイヤレスで接続可能なアプリケーション:従来、有線でインバータとPCを1対1接続していましたが、ワイヤレスで複数台のインバータと接続可能なモバイル端末向けアプリケーションなどが拡充しています。
様々な設定がモバイル端末から可能:インバータ設定データの読み出し・書き込み、電流・電圧など現在の状況をアナログおよびデジタル波形でリアルタイムトレース、アラーム履歴の確認、遠隔でモータ試運転など、設定やメンテナンスが容易になりました。
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bプッシュイン端子への対応
工具を使わず、指先で差し込むだけでかんたんに配線できることから、より効率的に作業できる点が評価され、2010年ごろからヨーロッパで普及してきたプッシュイン端子へ移行しています。
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c制御盤レス
高保護構造(高いIP等級)対応のインバータがラインアップされています。
多湿・粉塵といった悪環境下に対応できるため、機械により近い場所など(置きたい場所・空いた場所)に簡単にインバータを設置できます。またインバータの盤外設置により、熱対策の面でも盤設計への負担を軽減でき、制御盤を小形化できます。
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d簡易PLC機能
インバータが簡易的なPLCの機能を内蔵することにより、タイマー機能、リレーシーケンス機能等を専用のPLC不要で実現できるようになりました。PLC機能の設定はパラメータ設定もしくは専用PCツールにて行います。インバータ内部の制御情報をインバータ内部で処理して使用することにより、周辺機器やセンサの削減にもつながります。
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e用途別機能の充実(ファン、ポンプ、エレベータ)
インバータが使用されるアプリケーション(装置・設備)には種々の用途があります。インバータでは,それらの各用途により適した機能の拡充が進んでいます。例えば,ファン,ポンプ用途では,温度や圧力を制御する機能や,複数台運転制御,大規模な空調設備の導入に適するビルシステム連携機能などがあります。エレベータ用途では,スムーズな動きを実現する特有の調整機能や,停電時などの復旧運転をサポートする機能などがあります
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fPMモータ駆動
速度センサ無しで、永久磁石を回転子に組み込んだPMモータ(SPMモータ/IPMモータ)を駆動でき、一般的な誘導電動機よりも高効率な運転が行えます。ちなみに、PMモータはインバータがないと駆動できませんのでご注意ください。
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g機能安全対応
安全機能対応(STO、SS1など)で、機械・設備メーカにとって設計しやすい:欧州では製品の安全に対する要求が高まり、インバータの機能安全に関する国際規格IEC61800-5-2が定められました。安全機能はIEC60204-1に基づき停止カテゴリがあり、停止カテゴリ0のSTO(Safe Torque Off)の対応することで、インバータからモータへのエネルギー供給をインバータの制御に関係なく外的操作により強制的に遮断することができるようになりました。規格認証されたインバータを選定し機械・設備のシステムに組み込むことで、インバータ自身で制御が効かない異常な状態におきましても、本機能を使用いただくことで安全に停止することができます。 -
h規制対応(効率)
各国に製品を輸出するときに、安全基準を満たしていることを証明するために、製品にマークを表示することが義務付けられています。
【例】米国(UL規格)、欧州(CEマーキング)、英国(UKCAマーキング)、中国(中国強制性製品認証)、韓国(KS規格)
<各国認証に関わる規則>
・電気安全:電気機器の使用による感電や火災など電気安全を規制
・電磁両立性(EMC)規制:エミッション(EMI)およびイミュニティ(EMS)を規制
・効率規制:エネルギー使用製品の環境への悪影響を低減
・特定有害物質使用制限
<IEC規格への取り組み>
日本電機工業会(JEMA)が主体となり製品群ごとに、日本国内の企業が参加した委員会・分科会などを設置しています。その委員会・分科会でIEC規格の制定に当たり、日本に不利益を生じない意見の提案・反映を行っています。例えば、可変速駆動システム(PDS)およびインバータの効率測定では、測定方法、測定点が統一されておらず、欧州提案の規格案は日本の実情に合わない点が多々ありました。日本電気計測器工業会(JEMIMA)と共同で実証試験を実施し、日本の実情に合った測定方法を実機データにもとづいて提案し、IEC規格に反映させました。
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近未来
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aサイバーセキュリティ対応 【進化するPLC】
近年、工場内の機器同士がデータでつながることによって工場のスマート化を実現する取組みが増えていますが、その一方で工場に対するサイバー攻撃の脅威が増大してきています。そのためIT領域に接続する工場の現場での制御システムにおいて、セキュリティ対策の重要性が高まっており、産業用オートメーションおよび制御システムで使用されるセキュアな製品の開発のためのプロセス要件を規定する国際標準規格「IEC 62443-4-1」などへの認証を取得し、セキュアな製品の提供や、お客さまが制御セキュリティに対応したシステム構築を容易にしていきます。 -
b故障予知機能 【進化するPLC】
近年ではインバータ自身や周辺装置の故障予知の需要が高まっています。現状では故障予知判断に必要となる電流やトルク等を上位システムに伝送し、故障の未然防止やトラブル発生時に迅速に対応することが可能です。
今後、インバータの性能向上・故障予知判断の進歩により、インバータ単体でも故障予知ができるようになり、周辺装置まで含めた故障予知システムを低コストで実現可能となります。 -
cインバータ内蔵モータ 【システム小型化】
インバータの小型化技術および冷却技術の向上等により、高温環境となるモータ筐体内にインバータを内蔵するものが開発されており、インバータ駆動による高効率運転、省配線やEMC性能の向上等の効果が期待されます。
今後はさらなる小型化により標準誘導モータと取付寸法完全互換とすることで、リプレース性を高めた製品の開発が期待されます。
インバータとモータが別の構成よりも体積や質量を軽減させることが可能です。 -
dSiC、GaNデバイスの採用 【システム省エネ化】
インバータのパワー回路で用いられる現在主流のSiデバイスに対し、より低損失、高耐圧、高温動作といった優れた特徴を持つSiCデバイスやGaNデバイスの実用化が図られています。今後それらの新デバイス採用により、インバータも一層の高効率化や、小型軽量化、高温環境対応が進みます。 -
eIE5新モータへの対応 【システム省エネ化】
シンクロナスリラクタンスモータやアモルファスモータなどの新モータへの対応で、さらなる省エネルギー化が進みます。 -
fDC複数接続での自己消費 【システム省エネ化】
回生コンバータとインバータシステムのDC部分に再生可能エネルギーシステム、蓄電装置を並列接続し、モータの回生エネルギーをDC部に蓄電したり、再生可能エネルギーを蓄電して、その電力を使ってシステム全体の「ピークカット」「電源設備の小型化」を実現します。 -
g水冷 【さらなる信頼性向上】
高い冷却性能:移動体をはじめとして、大容量インバータには水冷の冷却機構が採用されています。インバータ内部の半導体などの発熱がダイレクトに外部へ排出される構造であるため、冷却性能は強制空冷を大きく上回ります。そのため、インバータの小型化に寄与します。
空調設備などの省エネ効果:強制空冷では、ヒートシンクで空気中に放熱するため室内の温度が上昇し、インバータの使用環境が悪化します。室内の空気自体が熱くなれば、インバータ内部品の性能低下や破損のおそれがでてきます。一方、水冷インバータは空気中に熱を放出しないので、室内の温度上昇を避けることができます。そのため、大型の空調設備が不要となり、空調設備の省エネ効果が期待できます。
厳しい環境下でも使用可能:設置場所(屋内外)、耐環境(腐食性ガス、耐振動など)など、様々な業種で求められる耐環境性に応じたインバータが拡充しています。
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6.インバータ適用時の代表的な注意事項とその対策
インバータ適用時の代表的な注意事項とその対策を以下に記載します。
詳細については、下表の「参考資料」を確認ください。
インバータ適用時の代表的な注意事項とその対策
注意事項 |
現象 |
主な対策 |
参考資料 |
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モータ騒音 |
インバータ素子のスイッチングに起因して電磁騒音が発生する。 |
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漏れ電流 |
インバータ素子の高速スイッチングと、電線、モータ、大地間の漏洩キャパシタンスにより漏れ電流が発生し、外部に接続した漏電遮断器の誤動作を誘発する。 |
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ノイズ |
上記漏れ電流の変化がノイズとなり、周辺機器に影響を与える。 |
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高調波 |
インバータの整流回路により発生する高調波電流が周辺機器に影響を与える。 |
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振動 |
インバータで変速を行うことにより、機器の固有振動数と共振し振動が発生する場合がある。 |
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サージ電圧によるモータの絶縁劣化 |
インバータ素子のスイッチングにより発生するサージ電圧が出力電圧に重畳され、モータの絶縁に影響を与える。 |
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モータの軸受電食 |
インバータ駆動時のコモンモード電圧に起因する軸電圧により、グリースの状態や接地状態等とあいまって軸受電食に至る場合がある。 |
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インバータ関連資料
JEM規格・JEM-TR技術資料
- JEM 1468 汎用インバータの外形寸法記号(1996)
- JEM-TR 148 インバータドライブの適用指針(汎用インバータ)(2008)
- JEM-TR 169 一般用低圧三相かご形誘導電動機をインバータ駆動する場合の適用指針(1990)
- JEM-TR 201 特定需要家における汎用インバータの高調波電流計算方法(2015)
- JEM-TR 217 汎用インバータの用語及び標準仕様(2001)
- JEM-TR 226 汎用インバータ(入力電流20A以下)の高調波抑制指針(2003)
- JEM-TR 234 インバータの船舶への適用指針(2006)
- JEM-TR 245 汎用インバータの規約効率の算出方法(2012)
報告書
パンフレット
- 汎用インバータ定期点検のおすすめ(2001)
- インバータの上手な使い方(電気ノイズ予防対策について)(2021)
- 400V級インバータで汎用モータを駆動する場合の絶縁への影響について(1994)
- 周波数変換器(インバータ等)を輸出する際には許可申請が必要になる場合があります!(2013)
- 汎用インバータの更新は計画的に(2014)
- 汎用インバータ及びサーボアンプの高調波抑制対策について(2022)
- 誘導電動機をインバータ駆動する場合の軸受電食について(2016)
- 「持続可能な社会に貢献するインバータ」2023~2024年版(2024年11月)
- 一般用低圧三相かご形誘導電動機をインバータ駆動する場合の適用指針(2024年度版)(2025年3月)